思い出づくり研究所レポート

思い出を残すために -写真から家族の歴史が見えてくる-

写真が上達する確実な道は整理の仕方のなかに隠れている

文:平嶋 彰彦

写真を整理する目的は、さしあたっての利用とあとになってからの再利用を便利にするためである。だが、私はもう一つ積極的な意味があると思っている

一口に写真の整理といっても、フィルムや画像データもあれば、プリントや印刷物もある。原材料と完成品では整理の仕方も違ってくる。また撮影する被写体にしても、人によりさまざまだから、整理の方法も一律には決めにくい。肝心なことは、自分であれ他人であれ、利用者が使いやすいかどうかである。だれに聞いても写真の整理は悩みの種らしい。写真整理の経験豊富な報道メディアであっても、だれもが満足できるような理想的な形には必ずしもなっていないと聞いている。

私の場合はフィルムでも画像データでも、撮影年月日順に並べるのを基本的な原則にしている。家族写真のアルバムも自然とそうなる。これは長年勤めた新聞社の写真整理の経験から学んだ方法である。時間はだれにとってもはっきりした指標になるし、あいまいさがないのがいい。

フィルムはポジ(カラーポジ)とネガ(モノクロネガとカラーネガ)は別々に整理する。そのあとの具体的な整理作業に変わりはない。
6コマ×6段(または6コマ×7段)のフィルムシーツの状態で、撮影年月日順にしてファイルブックにまとめる。表紙には目次をつくり、テーマと撮影年月日・撮影地を書きいれる。フィルムシーツはテーマごとに区切りをつけ、扉ページにテーマ・撮影年月日を記載。一枚1まいのフィルムシーツにも撮影年月日は忘れない。そのうえで、これと思われるコマには○印をつけ、簡単なメモを書き残す。
カラースライドは使用の決まったカットだけを切りだす。それ以外はフィルムシーツのまま整理・保存する。マウントはかさばりやすくスペースをとるから、なるべく使わないようにしている。
デジタル画像の整理の仕方も、基本的な考え方はフィルムの場合と変わらない。
デジタルがいいのは、こちらで操作しなくても、時系列で画像が並んでくれることだ。しかも一枚1まいの画像には撮影した年月日はもちろん何時何分まで記録されている。これはすごい。いちいちメモをとる必要がないのだ。時間ばかりではない。近ごろは場所を特定できる機種まで現れている。

だからといって、整理もせずに倉庫に放り込んでおくだけでいいわけでもない。それではいざというときに、これと思った写真をすぐに見つけられない。前回にも述べたが、最低限の整理はやはり必要である。

私の倉庫は、1テラバイトの外付けハードディスクである。内部には1ヶ月単位で大部屋をつくり、その中をさらにいくつかの小部屋に仕切っている。小部屋の一つひとつには1回ごとの撮影データ収容する、という単純なしくみである。

大部屋には、例えば「写真2011年02月」の表札をつける。小部屋の表札には、撮影地とキーワードを記入する。例えば「2011.02.10  台東[御徒町]、湯島、上野」という具合だ。この日の町歩きは、かつての御徒町、現在の台東3丁目と4丁目をぶらついたあと、時間があったので、湯島天神下の湯島3丁目と上野1丁目まで足をのばした。いずれも戦災を免れた古い町並みが残っている地域だ。町名とキーワードは、時間が経っても、写真を思い出す手がかりになる。

すでに述べたように、これと思ったカットがあれば、フィルムなら整理用のシーツに○印をつける。デジタルの場合は、○印というわけにはいかない。その代わりに、簡単な画像調整をすまして別名で保存するようにしている。元データに加えて別名のデータがある画像は大事なカットか要注意の画像という意味になる。きわめて原始的なやり方だが、何百カットのサムネイル画像を一覧する場合でも、写真選びの見通しがたてやすくなる。

写真を整理する目的は、さしあたっての利用とあとになってからの再利用を便利にするためである。だが、私はもう一つ積極的な意味があると思っている。
整理をしていると繰り返し画像と向き合うことになる。繰り返し画像を見ることは否応なく反省をうながす。たくさん写しても気に入った写真はごくわずかだ。どうしてつまらない写真になったのか。何が欠けていたのか。そこに一瞬でも立ち止まってみる。それが大事だと思う。その体験を繰り返すうちに、おのずとものを見る目が養われ、自分なりの撮影の方法が見つかるようになる。
写真が上達する確実な道は整理の仕方に隠れているといってもいい。

(筆者プロフィール)
平嶋 彰彦
写真家、編集者。元毎日新聞社出版写真部長、ビジュアル編集室長。『宮本常一写真・日記集成』上下巻別巻1、『宮本常一が撮った昭和の情景』上下巻(いずれも毎日新聞社)の編集を担当。共著に『昭和二十年東京地図』(筑摩書房)『町の履歴書・神田を歩く』(毎日新聞社)などがある。