思い出づくり研究所レポート

被災者の思い出がつまった写真を洗浄

「写真救済プロジェクト」は、一本の電話から始まりました。

震災から間もない3月22日、富士フイルムに被災地の方から「写真が汚れてしまったが、洗い方がわからない」という問い合わせ電話があったのです。幸い、富士フイルムには、2000年の東海豪雨の際に考案した、水でくっついてしまった写真への対処法がありました。

早速その方法をホームページに掲載したところ、ツイッターなどで大反響。しかし、海水での対処方法は異なるかもしれない、そう考えてより適切な洗い方を求めて、工場の技術部門では土を混ぜた海水で検証をしました。用紙、プリント方法、アルバムの種類、写真どうしのくっつき方…検証は60パターンにも及びました。

4月9日には、富士フイルム社員が東京からエコカーを借りて現地に入ります。彼らは、現地で集められた写真の状態を確認し、工場で検証した結果が間違いないことや、現地で洗浄のために必要なものは何かを確認しました。さらに自衛隊が集めた3000枚の写真を足柄工場に持ち帰り、大人数での運営方法を確認するために実際に70人程度の社員を集めて洗浄をしました。これらの過程で、写真の洗浄方法が確立します。

4月22日には「写真救済プロジェクト」を発足。その後、月末からゴールデンウィークにかけて、東北地方を中心に「写真救済方法」のTV、ラジオCMを流し、周知を図ります。そして現在も、長年写真事業に取り組んできた富士フイルムならではの、写真を軸とした被災地へのボランティアとして、プロジェクトは続けられています。

被災地では思い出を修復する試みが進んでいる

プリントの方法で、思い出の運命は変わる…水に強い「銀塩写真」

4月9日に富士フイルム社員が持ち帰った写真の9割以上が「銀塩写真」(銀写真プリント)と呼ばれるものでした。このことが、写真に残された思い出の運命を左右します。

「銀塩写真」とは、用紙の上に化学薬品をゼラチンに溶かして塗布したものであり、露光、現像処理をした写真プリントのことです。フィルムやデジカメ画像を店に依頼してプリントする写真のほとんどがこれに当たります(注:店でのプリントの全てが「銀塩写真」ではありません。詳しくはプリントを依頼した店にご確認ください)。

「銀塩写真」は、現像液中で現像処理をするため、耐水性の紙が使われ、色素も耐水処理されたゼラチンに保護されています。したがって、そもそも比較的水に強いのです。しかし、今回写真を襲ったのは単なる水ではなく汚水。汚水に繁殖するバクテリアがゼラチンを侵食します。そのため一刻も早い写真救済が求められます。

銀塩写真は複数の層によってできている

思い出づくり研究所第3回 「デジタル画像保存の落とし穴  5人に1人がデータ消失」の調査からも分かるように、デジタルカメラ全盛の今、写真はプリントせずにデータだけ持っている、という方も多いようです。

しかし、表現力や保存性、取り扱いの手軽さなど、銀塩写真の強みも少なくありません。データだけではなく、プリントもし、複数の方法で保存することで、守れる思い出はより増えるのではないでしょうか。