小池キヨミチ

『自然とつながる時』より

作品名:「大地の囁き」

脳裏に焼きつく光と影

私がこの地に足を踏み入れたのは30年ほど前になる。アメリカ永住者という立場であった自分にはアメリカ社会そのものが未知の存在であり、その社会の存在を許している大自然の意味や魅力などを感じる余裕は当時の私にはとてもなかった。自然界に存在する生態系がお互いのバランスをとりながら共存するように、多くのものに助けられて社会の中で生きることを学んだが、2001年の同時多発テロ事件ですべてがかわった。それまで平和産業で生活を立て、公私での試練をやっと乗り越えたところに経済的なとどめをさされた思いがした。現実を強いられ途方に暮れた。そんなときに導かれるように引き込まれたのがアメリカ西部の大自然である。

ロッキーマウンテンの麓から、大山脈を越えて西に進むとどこまでも広がるコロラドプラトー(高原)がある。世界的に知られるグランドキャニオンやモニュメントバレーなどの国立公園や保護地域が多くあるとてつもないスペース。そして先住民文化にも染み込んでいる大自然の波動のようなものが、その多様性ある景観から感じられる。地質変動がもたらした隆起や亀裂、侵食による、恐ろしく、また美しい表情が訪れるものを魅了する。古代に散り積もった砂などが堆積して岩になり、太陽を浴びて侵食を受ける間に秘境と呼ばれる場所がいくつかつくられ、我々の興味を更にひきつける。自然環境の保護と観光開発、自然とのバランスと営利の社会構造という課題を抱えながらも、パリアキャニオンにあるコヨーテビュートは抽選による許可証発行で入山者制限をして保護を促す。そこを訪れる「選ばれた」ものたちはプライドに似た感覚を持ち、また責任感という誰もが持つ感覚に鋭敏に目覚め再認識する。写真撮影には美しすぎる被写体。一度訪れるとまた来たくなる感覚は、単にその美しさに感じるものが導いているのではなく、被写体とのつながりというものを我々が潜在的に切望しているからではないだろうか。
撮影データ: ペンタックスK-5IIs、SMC PENTAX DA*16-50㎜、F18、1/60 秒、ISO100、アメリカ、2013.2.15、三脚使用

小池キヨミチ(こいけ・きよみち)

1959年静岡県浜松市生まれ。1983年米国永住。2001年同時多発テロ事件を契機に2004年から各種写真展入賞、後に2006年に前田真三賞(風景写真社主催)最終選考作品(同年の受賞者なし)に選ばれ高い評価を受ける。その後、プロ写真作家として活動開始。2013年5月の個展が日本で6度目となる。著書に写真集「大砂丘の声」など他多数。日本写真家協会会員。

水谷章人 『極限の刑像』より 作品名:「魅了の瞬間」

水谷章人

『極限の刑像』より

作品名:「魅了の瞬間」

message

技の一瞬をねらうのではなく、絵づくりを優先に考え、ジャンプする女性を中心に、手前の平均台や奥にいる観客、右側の大会ロゴなどのバランスを重視して撮影している。本来のスポーツ写真であれば技を決める瞬間の選手をねらい、フレーミングは考えずに撮影する。しかし、今回は思い描いた絵に沿うタイミングをねらって撮影するという今までとは真逆の撮影方法を試みた作品だ。飛んでいる女性は、実は平均台ではなく床運動の競技でジャンプしている。一瞬平均台で飛んでいるかのような錯覚すら覚える構成になった。

撮影データ: キヤノン EOS-1D MarkⅡ、300mm F2.8、1/1250秒、ISO3200、東京都、2011 世界体操選手権  東京大会

水谷章人(みずたに・あきと)

'65年東京総合写真専門学校を卒業。'70年に富士フォトサロンで個展「限界に挑むスキー」を開き、これをきっかけにさまざまなスポーツの一瞬をクローズアップして表現する作品を多数発表。 '93年に日本スポーツプレス協会会長に就任。
'01年からはJCIIスポーツ写真プロ育成セミナー「水谷塾」を主宰。主な受賞歴に講談社出版文化賞 ('81年)、日本写真協会作家賞 ('07年)など。

水谷章人 『極限の刑像』より 作品名:「乱戦の瞬き」

水谷章人

『極限の刑像』より

作品名:「乱戦の瞬き」

message

剣道の勝敗は一瞬で決まる。今のデジタルカメラでは、その瞬間を切り取るのはむずかしい。あえてスローシャッターを剣道をイメージで表現した。この写真は試合のなかで床の色を際立たせている。ブレはいくら考えても計算通りにはいかない。運命の瞬間は偶然につくられるものだ。予測できないスポーツを芸術にする。それが写真家の技だ。

撮影データ: キヤノンEOS-1D、400mm、F9、1/15秒、ISO100、東京都、全日本剣道選手権

水谷章人(みずたに・あきと)

'65年東京総合写真専門学校を卒業。'70年に富士フォトサロンで個展「限界に挑むスキー」を開き、これをきっかけにさまざまなスポーツの一瞬をクローズアップして表現する作品を多数発表。 '93年に日本スポーツプレス協会会長に就任。
'01年からはJCIIスポーツ写真プロ育成セミナー「水谷塾」を主宰。主な受賞歴に講談社出版文化賞 ('81年)、日本写真協会作家賞 ('07年)など。

 

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