湯河原ばななの「鉄道のじかん」

片道四分の電車の旅

去年の夏、家族で伊豆の下田に行きました。
エメラルドグリーンの海と白い砂浜がお目当てです。
荷物が多かったので車で行きましたが、我が家の息子は大の電車好き。
「今回は電車に乗れなかったから、明日船に乗せてあげよう、きっと喜ぶだろうな」。そう思いました。

翌日、港で遊覧船に乗りました。でも、息子は窓の外の景色に目もくれず、ずっと本を読んでいました。
同じ乗り物でも、息子にとっては別物だったようです。
船からさっさと降りた息子が言いました。
「駅に行きたいなあ」。

そうして下田駅にやってきました。駅の前には風情のある時計台があります。
入場券を駅員さんに切ってもらった息子は、ホームを探検して汗だくです。
しばらくして伊豆急行の銀色の車両がやってきました。
こうなると乗りたくなるのが人情というもので、隣駅の蓮台寺までの切符を買い直して乗りました。

車内に足を踏み入れると、私たちの他に誰もいません。橙色の長い椅子をひとり占拠して、ごきげんな息子。
その様子にほっとして、私は売店で買ったご当地サイダーをプシュッと開けました。
一口飲むと、シュワシュワと夏の味がしました。

がたん、ごとん。電車が動き出しました。
窓辺に置いた透き通ったサイダーの瓶の後ろを、緑の山々がとんでいきます。
きれいだな、と思わずシャッターを切りました。

旅はあっという間に終わりました。
片道たったの四分。
旅というには短すぎる時間かもしれません。
でも窓辺のサイダーの写真をみると
「あの夏、伊豆で鉄道の旅をしたなあ」と、確かに思えるのでした。
写真が四分の旅を、
永遠の思い出にかえてくれたのかもしれません。





湯河原ばなな

PCC女子部のメンバー。こどもに影響されて好きになった鉄道と、家族の日常を撮るカメラママ。物語を感じさせる写真で、人の心を和ませます。フォトグッズやフォトブックのアイデアはピカいち。

●PCC女子カメラサークルLumiere 公認ブログ
「女子写真部の部室から。」
http://ba7juice.exblog.jp
●湯河原ばななのブログ
ことりっ鉄
http://morijuice.exblog.jp/

東京から一番近い、ローカル線の旅

湯河原ばななの「鉄道のじかん」

東京から一番近い、ローカル線の旅

春です。冬の間寂しかった線路端も、色とりどりの花が咲き始めにぎやかになってまいりました。
この春、私が行きたいのは、やっぱりローカル線の旅!東京近辺だと近くて花がいっぱいの、房総方面のローカル線が人気があるようですね。

今回の写真も、とあるローカル線の駅です。どこを走っている路線だと思いますか?
答えは「流鉄流山線」。流鉄流山線は“東京から一番近いローカル線”とも言われています。なんと上野駅から30分足らずで行ける、気軽なローカル線なのです。

この日、私は馬橋駅から流鉄に乗りました。気になった駅で降りては、ひと駅ふた駅、ぶらぶら散歩しているとすぐに日常とは違う景色に出会えました。

カラフルでユニークな短い電車。
ひらがなでホーロー板に書かれた駅名。
線路端には木の杭が並び、向こうには緑のネギ畑が広がっています。
そこには確かにローカル線の風景がありました。

そうして最後の最後に着いた流山駅。
硬い切符を駅員さんに渡して改札を出ると、駅前には人があまりいません。店もあまりありません。ただタクシーの運転手さんがふたり、話をしていました。

ふと、19歳の時に旅をした東北の町の駅前を思い出しました。あの頃は何も知らなくて、携帯電話も持っていなくて公衆電話で何軒も宿を探して・・暗くなってくると不安になって。そんな時もやっぱり、タクシーの運転手さんは話をしていたなあ。
なんだか懐かしい気持ちになって、駅前の写真をぱちり。液晶に映った写真をみて思いました。人があまりいない駅もいいもんだ、と微笑むことが出来るくらい、私は大人になったんだなあと。

短い時間でも旅気分を味わえる流鉄流山線ですが、利用者は多くはなく、四月末にはひとつの車両が引退するとのことです。
黄色いその車両のある流鉄の風景を、自分のカメラで残したい。そう思っている今日この頃です。

湯河原ばなな

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ゆらぎのある旅

湯河原ばななの「鉄道のじかん」

ゆらぎのある旅

ある日曜日の午後。
私は半ば目を閉じて見知らぬ電車に揺られていました。
なんとなく平日の緊張感や疲れを降ろせないまま、くすんだ赤い座席に座り込み、
もう明日は月曜日かあ、早いなあ。
4時か5時にはここを出ないとなあ。
そんなことをぼんやりと思っていました。

その時。
ちらり、緑色のものが目に飛び込んで来ました。
えっ?
はっとして思わず立ち上がり、カメラのボタンに人差し指をかけました。
先頭車両の窓の中には、緑のじゅうたんと二本の線路。ただそれだけ。
なのに、夢中でシャッターをきっていました。

電車が揺れるたび、きゃしゃな銀色のレールもゆらゆらと控えめな光を放ちます。
これって、きれいだ。
ゆらぎ、という言葉がどこからともなく頭の中に浮かびました。
レールのでこぼこがもたらす電車の揺れ。
樹々のざわめき。
窓から差しては消える午後の光。
どこまでも続いていくかのような線路に、いつの間にか私の心も、ウーンと大きく伸びをしたように軽くなっていました。

毎朝毎晩規則正しく通勤電車に詰め込まれて働くだけの毎日。このままでいいのかな、と 思うことが誰しもあるでしょう。
でも電車の旅にはゆらぎがある。
ゆらいでもいいんだよ、と言ってくれる。
だから毎日乗っているのにも関わらず、
休みの日にも電車で旅に出たくなってしまうのだなあ。
週末はゆらぎを探しにいきませんか?あたたかくして、カメラと切符を手に。






湯河原ばなな

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