思い出づくりを考える(概要)野島 久雄

1. 思い出とは何だろうか

思い出は過去の記憶だけではない。自分がなぜこの仕事をしているのか、なぜこの人と友人なのか、私はなぜこういう性格なのか、この疑問に答えるためには、自分のこれま での経験、大切な出来事の記憶が必要になる。思い出は「過去のこと」ではなく、現在の私を作り、未来の私を方向付ける情報でもある。

2. 記録・記憶・思い出

■記録: 客観的な外部メディアによって保存される情報。写真やビデオ、新聞記事、雑誌、インターネットなどに掲載されて定着された情報。異なる人が見ても同じものとして認識できる。
■記憶: 自分の中に残っている過去の体験や情報。同じ体験をした人の間でも同じ記憶があることは保証されない。
■思い出: 記録や記憶を手がかりにして、自分が作り出す「物語」。

であると考える。したがって、「思い出」とは、

a) 体験や体験の記憶そのものではなく、
b) 現在進行中のものでもなく、始まりと終わりがある、ひとまとまりのものとして認知されているものであり、
c) 人に語り得る形でまとまっているもの(実際に他者に話をするとは限らない)であり、
d) 事実に合っているかどうかは必ずしも問題とされない。

3. 「思い出づくり研究所」の取り組み

私たちにとって思い出が大切であること明らかだ。しかし、その思い出は今危機にある。思い出づくり研究所では、大切な思い出をどのように保存し、その思い出をどのように活用するかを考える事によって、個人の思い出を未来へのメッセージとするとともに、思い出を手がかりとしたコミュニケーションを活性化させるための方法を提案していきたい。具体的には、次の3点についての検討を行う予定である。

3-1. 思い出の危機にどう対処するか

(a)メディアの信頼性: 現在思い出はデジタル情報として保存されることが多いが、デジタルメディアの寿命は長くない。DVD-Rに保存した写真が30年後には読めなくなるかもしれない。どのように保存したら良いかについて検討を行う。

(b)個人の思い出をコミュニケーションに: 携帯電話、メール、個人用のビデオ機器など、思い出を保存し鑑賞するための情報機器は一個人に向けたものが多くなっている。思い出をコミュニケーション活性化のための活用法についての提案を行う。

3-2. 思い出の価値はなんだろうか

全ての情報やモノに思い出としての価値があるわけではない。また、ある人に意味がある思い出が他の人にはゴミであることもあるだろう。私たちはなぜ思い出を価値あるモノと考えるのだろうか。また、あるイベントは他のイベントよりも思い出として保存する価値があるといえるのだろうか。あるものの思い出としての価値があらかじめ分かっていれば、後になって「あれを取って/撮っておけば良かった」と残念に思うこともなくなるだろう。

3-3. 思い出をどう保存するか

情報技術の進歩によって、思い出を記録する道具や保存するためのメディアは多様化した。その一方で、たくさんの思い出情報をどう管理し、どう活用したらいいか戸惑うことも多い。思い出を一つのパッケージとして、思い出を一つの物語として語れるようにすることによって、思い出とコミュニケーションを結びつける仕組みの一つとして、より良いフォトブックの作り方の提案をする。

思い出づくりを考える(詳細)